大阪教育大学教授 加賀田哲也先生
須原先生とは、ほぼ1年半前にある英語研究会で知り合って以来、先生の教育観にはずっと関心を持っておりました。そこで、昨年末に思い切って、お電話で須原先生の教室を訪れたいという私の一方的な思いをお伝えしたところ、即ご快諾して下さいました。須原先生とは数時間ご一緒しただけですが、実にたくさんのことを学ばせていただきました。また、教育者としての私のこれまでの営みがいかに稚拙で皮相的なものであったかを悟る瞬間でもありました。
その日は「特別集中講座」というクラスを見学させていただきました。須原先生は最初に本日の流れをご説明なされただけで、すぐに下の教室へ向かわれました。このあと一体どうなることかと興味津津でしたが、生徒さん達は個々に黙々と学習しているではありませんか!誤解のないように申し上げますが、須原先生は生徒さん達を放っていらっしゃるわけではありません。生徒さん一人ひとりの自主性を完全に尊重されていらっしゃるだけなのです。このように子どもたちの学習に対する自主性を重んじ、学習内容の選択権を個々に与えることは、本人が学習に対して責任を負うことを意味し、このような学習を継続することで、自己の学習習慣や学習スタイルを省察したり、延いては、自律的な学習者へと導いていくものです。
教室での須原先生の役割は instructor (指導者)というより、facilitator(支援者)でありました。適宜、生徒さんに寄り添い、励ましやアドバイスを与えていらっしゃいます。生徒さんが勉強したいところを伝えると、即、問題が提供されていました(先生のパソコンには過去の入試問題から大手の問題集の練習問題まで実にたくさんの問題がインストールされており、一見の価値ありです!)。また、生徒さんと雑談されているお姿は、まさに fatherly/parental image(父親としての像)そのものでした。須原先生が生徒さんを自分のお子様のように愛し、また、生徒さんも先生に心から信頼をおいている様子を目の当たりにし、まさに「真の教育者」としての須原先生を感じ取ることができました。
須原先生は、ご自身の教室を「ここは、進学塾でも、補習塾でもありません。ここでは、子どもたちが自ら学習の意味を見出し、「分かった」という体験を積み重ねていくことを大事にしています。このことが、子どもたちを志望校へと誘うのです」とおっしゃっていました。このお言葉は、すべての子どもたちに潜在する「自己成長力」を信じて関わることの重要性を示唆するものです。
私は英語教育を専門としていますので、他教科のことはよく分かりませんが、「速読英単語」をひたすら英訳している、あるいは暗唱している生徒さんを拝見した時には、私が今教えている将来英語教員志望の大学生のどれくらいがこのタスクを達成できるだろうかとふと考えてみました。英語ができる子もそうでない子も「英語を話したい、英語が話せれば、かっこいい」という思いを抱いています。しかしながら、英語を話すためには相当のインプット量が必要となります。そのようなインプット量を確保するためには「速読英単語」は有効な教材だと思います。「速読英単語」のこのような活用法は、繰り返しを要する地道で退屈なものかもしれませんが、「確かな学力」の養成に通じることは間違いありません。将来、須原英数教室の子ども達が地球市民の一人として世界へはばたく時、きっとその恩恵を受けるはずです。
須原先生が強調なされていたことに、「国語力の育成」が挙げられます。思考の手段はやはり母語です。母語で表現できないことは、外国語ではさらに難しくなるはずです。こういった意味で、英語学習にもやはり国語力が必要となります。入試で英文和訳を採点するたびに、支離滅裂な日本語が多いことに失望させられます。自分が読んで分からない文章は他人が読んでも分からないのです。いくら英文の構造が理解できていても、その英文の内容を適確な日本語で表現できなければ印象が悪くなるのは当然です。和文英訳の場合にも当てはまります。難関大学の入試問題では、まずは日本語を解釈、分析することから始めなければいけません。小論文や面接にも確かな日本語力が要求されることは言うまでもありません。そのためにも、須原先生がおっしゃるように、新聞を読むことを習慣づけ、論理的思考力、批判的思考力を常に養っていくことが大切です。
須原英数教室では、高2の夏以降はクラスが無料で開講されています。しかも途中でティータイムもあります。この日は、女子生徒さんが皆のためにアイスキャンディーを持ってきていました。自己愛的傾向を示す子どもたちが多い昨今、また、経済的な変動が激しい昨今、須原先生のこのような教育実践は、他者の喜び、悲しみ、痛みをあたかも自身のこととして共感的に受け入れることができる「豊かな人間性」を持つ子どもたちの育成にもつながるものです。須原英数教室で学んだ子どもたちは、学力面の伸長にはもちろんのこと、情緒的な成長にもあずかっていると思います。
最後になりましたが、今回訪問の機会を与えてくださった須原先生に心から感謝するとともに、須原英数教室の益々のご発展と、須原先生ご夫妻のご健勝を心よりお祈り申し上げます。