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塾長の独り言

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八尾高校生を励ます

2013-02-10
 5月には府立八尾高校、7月には金光八尾中学校・高等学校、9月には浪速中学校・高等学校の先生方に、また12月25日には八尾高校の1・2年生の生徒諸君対象に、それぞれ1時間から3時間の講演をする機会に恵まれました。特に八尾高校の生徒諸君が寄せてくれました感想文を読んでいますと、感激の至りです。私が予想していた以上に『塾教育』の成果が出たのではないかと考えています。
 女の子は小学校の高学年から、男の子は中学生の頃から反抗期を迎え、中学生から高校生にかけては、家庭でも学校でも中々扱いにくい年頃になって来ます。反抗期そのものはだれもが経験する関所みたいなものですが、その時に親の気持ちや子供の気持ちを、あるいは学校の先生の考えや意図するところを相手に伝えられる『第三者』たる存在があれば、もっとスムーズに理解しあえ勉強にも打ち込めるのではないかと思います。
 今年の年賀状でも少し触れていましたが、家庭教育における子育てにおいて、昔はおじいちゃんおばあちゃんといった年寄りがいて、孫をなだめたりたしなめたり励ましたりし、一方親に対してしは注意をしたりしてやがて親子の関係が修復されていくようでした。年寄りばかりでなく近所や地域のつながりも親密で、小父さんや小母さんが間に入ってくれることがありました。ところが『核家族』化により、そのような『潤滑油』あるいは『クッション』になる『第三者』の存在が少なくなっています。しかし、やはり子育てには親子だけではなくて『第三者』の存在が必要だと思います。
 学校教育におきましても、先生が生徒に対して抱いている思いと、生徒諸君が学校の先生に持っている思いが必ずしも一致しているとは限らず、すれ違っている場合も多いのではないかと思っています。その時にその両者を良く知る『第三者』の存在があれば、学校の先生と生徒との信頼関係がより深いものになり、生徒諸君が学校の授業に集中できるようになるのではないかと考えています。
 家庭教育における『第三者』の存在を塾、特に個人塾が担えることは、これまでの保護者や生徒諸君との触れ合いの中で、『塾教育』の成果としてその実効性は確認できていました。私は学校教育においても個人塾の先生が『第三者』になり得る、むしろなった方がいいと考えています。学校の先生と塾の先生が、子供を教え育てるという原点に戻って力を合わせて指導に当たれば、きっと良い成果が期待できると考えています。ここにも『塾教育』の存在意義があると思うのです。
 昨年の5月からそれを試し確認できる機会を与えていただきました。5月には府立八尾高校、7月には金光八尾中学校・高等学校、9月には浪速中学校・高等学校の先生方に、また12月25日には八尾高校の1・2年生の生徒諸君対象に、それぞれ1時間から3時間の講演をする機会に恵まれました。特に八尾高校の生徒諸君が寄せてくれました感想文を読んでいますと、感激の至りです。私が予想していた以上に『塾教育』の成果が出たのではないかと考えています。学校の先生と生徒諸君がより深い信頼関係で包まれて、生徒は自信を持って授業に臨み、勉強に対する動機付けが出来たことが伺えます。原稿通りの話が出来たわけではありませんが、八尾高校生に講演した原稿と、彼らの感想文の一部を載せました。
 私の考えを実践し確かめる機会を与えていただけました、八尾高校の杉尾哲校長先生と八尾高校の先生方、金光八尾中学校・高等学校の本荘忠彦校長先生と栗山定幸副校長先生並びに金光八尾中学校・高等学校の先生方、浪速中学校・高等学校の木村智彦校長先生と宮教頭先生並びに浪速中学校・高等学校の先生方には、深く感謝申し上げます。
 
 
 八尾高校生を励ます
はじめに
 
 おはようございます。初めまして、私は須原秀和といいます。近鉄山本駅と高安駅の丁度真ん中あたりで、講師を雇わず妻と二人だけで小さな学習教室をしています。今年で34年目を迎えています。何故私がこのような席にいて、皆さんに話しかけているのか、不思議に思っていることでしょう。今年の八尾市の公立中学校で使われています『公民』の教科書には『学校応援団』の記載がありますが、実は杉尾校長先生から『八尾高校の応援団長』を頼まれまして、君たちを励ましに参りました。1・2年生対象の勉強合宿が行われるのは、120年近い八尾高校の歴史の中で君たちが初めての経験なのです。そのスタートに際し、しばらく私の話に耳を傾けて下さい。
 
 1 公立高校校長先生の大切な役割
 
 さて、校長先生の話が出ましたが、公立高校の校長先生の生徒諸君に対する最も大切な役割は何か、皆さんはご存知ですか?それは、大阪府教職員およそ6000人いる中から、如何に教育熱心で優秀な教師を自分の学校に引っ張ってくるかです。君たちが生まれて2歳か3歳の頃、八尾高校には野村利夫校長先生が赴任されました。4年間八尾高校の校長先生をなさり、その後8年間奈良学園の校長先生をなさったあと退職されました。私とは非常に懇意にしていただきました。野村先生は大変教育熱心で、またアイデアマンでもありました。塾長対象の説明会が同窓会館『ゆうかり』で開かれたのも野村先生の時からです。当時大阪の府立高校で初めて塾の先生対象の学校説明会をされたのは、馬路英和校長先生の天王寺高校と八尾高校だけだったと思います。その流れは現在の杉尾哲校長先生にも受け継がれていて、100年余りに及ぶ八尾高校の歴史と文化を大切にしつつも、八尾高校生の学習の実力をつけるために杉尾校長先生は全力を投球されています。この1・2年生勉強合宿もその一つです。杉尾校長先生の熱意は野村先生に勝るとも劣らないものです。そしてその結果、君たちが教えていただいている先生方の多くは、府立高校の先生方の中でもとびきり優秀な先生方の集まりなのです。君たちが八尾高校に合格できたことによって、そのような熱意のある先生方にご指導していただいていることを、先ずしっかりと自覚すべきです。
 
 更に同窓会が君たちを支えています。八尾高校が地域の教育機関として、長い間信頼を受けて今日に至っていることを考え、今後、より一層価値ある存在になり得るためには、創立120周年を迎えることを機に、同窓会として向こう10年間総額4000万円の支援をできるようにと取り組んでおられるとのことです。一部はすでに先行実施されていて、この勉強合宿もその一環なのです。このような支援を前面に押し出した取り組みは、同窓会始まって以来のことだそうです。先日お会いした同窓会副会長の小田博茂先生は『八尾高校が、公立高校としてかつての信頼に応えられるように懸命に支えていきたい』と熱く語っておられました。君たちは、脈々と続く八尾高校の歴史の中で、多くの先輩の方々からも支えていただいていることも知っておくべきだと思います。
 
2 八尾高校卒業生『悠二』君(浪人後神戸大学進学)の場合    
 
これから八尾高校で学んだ教え子と今学んでいる教え子について、具体的な話をしましょう。一人は神戸大学を来春卒業する悠二君です。3年生5月までバスケットボールクラブに所属し、あまり勉強はしていませんでした。彼のお父さんは高校受験の教材や出版を手掛けておられる会社の偉いさんで、私の教室にも毎年2~3度来られていました。恩智に住んでおられるという地理的な事情もあったとは思いますが、大阪府をはじめ近畿地方のたくさんの塾をよく知っておられるお父さんです。その方に自分の息子を須原先生に預けたいと頼みに来られたことは、私にとっては大変嬉しいことでした。しかし一方で、①私の教室では高校2年生からは原則としてはめったにお引き受けしないこと、まして悠二君は3年生になっているのです。②いくら悠二君が神戸大学に行くためにこれからは勉強を頑張ると口では言っても、現実はかなり厳しいこと、③上手く希望校に合格出来たとしてもそれは私にとっては当たり前のことで、もし合格できなかった場合、悠二君のお父さんに私は顔向けできないなぁという思いがあったこと等から、私は正直『困ったな』と思いました。しかし悠二君の決意は固く、『頑張る』と言い張りますのでその熱意に負けて、私は『速読英単語』をするならば、という条件を出して引き受けることにしました。    
 
 『速読英単語』はこれです。100語から250語位の英文が70個書かれてあります。これを徹底的に覚えていきます。暗記したものを書き写す『暗写』ということをします。まとまった英文を覚えると、どういう効果があるのか。覚えた単語や文章を忘れにくいのです。単語だけ単文だけを覚えていると、覚えやすいが忘れやすく、実際には入試にあまり役には立たないのです。そして何よりも英作力に違いが出ます。京大・阪大・神戸大などの英語の二次試験においては、長文読解では差がつかないのです。英作文で差がつくのです。  
 1年間は52週ありますが、中間試験や期末試験などの試験勉強のときは出来ませんので、およそ35~37週として毎週2つずつ英文を覚えても1年近くかかります。これを高校1年生で1回、高校2年生でもう1回きっちり覚えておくと、3年生になって受験を迎えても、もう英語は余裕です。英語の実力がなく、3年生になっても英語の課題や予習に追われているようでは他の科目の受験勉強は思うように手が回らず、国公立大学のトップ校に合格することは難しいでしょう。  
 本当にできるのかなと半信半疑でおりましたが、悠二君は8ヶ月足らずで『速単』を仕上げたのです。これはすごい!これなら神戸大学に行けるかもしれないぁ…、と私は思い始めました。この速読英単語をきちんと出来る生徒は、国公立大学か悪くても関関同立の大学に合格できる能力があると、私は思っています。英語1科目でしかもそんな本1冊でわかるのかと思われるかも知れませんが、わかるのです。『速読英単語』を1年以内に仕上げる能力のある生徒は、他の科目もできる能力を持っていると判断できるからです。私にとって『速読英単語』は生徒諸君が国公立大学に行けるかどうかの一つのバロメーターでもあるのです。悠二君は他の科目の準備が整わず、残念ながら浪人はしましたが、翌年念願の神戸大学工学部建築学科に合格したのです。もう一年早く始めていたら現役で合格できたのではないかと思います。君たちならば今から始めれば十分間に合います。
 
  もう一人、小学4年生から教えていて、現在2年生の生徒がいます。明日クラブの試合があるためにこの勉強合宿には参加しておりませんが、すでに『速読英単語』を一度終わり、今は2回目に入っていて、その英文を暗唱しているところです。この冬休みと3学期と春休みくらいで2回目が仕上がればと思っています。数学は青チャートの例題をB6の大きさの情報カードに問題を解き、あとで何度も繰り返し学習できるように、今その子は『実力の蓄え』を作っているところです。世の中には確かに優秀な子もいて、最後の3ヶ月かそれくらいで集中的に勉強して、スッと京大や阪大に合格していくような『離れ業』をやってのけるような子もいます。しかし、私も含めて多くの普通の子はそのような離れ業をすることはできません。我々がそのような優秀な子と同じ土俵で戦って、京大や阪大や神戸大に合格するためには、冬休みを挟んだセンター試験までの1ヶ月と、センター試験のリサーチが戻ってきてからの二次試験までの1ヶ月、この詰めの段階の最後の2ヶ月をどう過ごすかにあります。最後の2ヶ月を文字通り2ヶ月で終わらせてしまうのではなくて、時間の余裕のある時に『実力の蓄え』を作っておき、何度も繰り返しその『実力の蓄え』を見直して、実質半年分以上の価値ある2ヶ月にすることが出来れば、合格できるのです。3年生が始まる春休みまでにできる限り『実力の蓄え』を作り、3年生になれば折に触れてそれを反復学習し、最後の2ヶ月で5回くらいは見直せば、センター試験は良い成績でクリア出来て、2次の志望校受験に道が開かれるのです。国公立大学はセンター試験次第なのです。やればできます。
 
 ここで少し余談になりますが、カード式数学学習法についてお話します。『教室だより』第125号に触れていることなのですが、灘高等学校に塩崎勝彦先生という方がおられました。灘高校生からは数学の神様のように思われている先生です。3・4年前に定年を機に、灘高校では非常勤講師になられ、同時に私立興国高校の進学特別顧問に就かれて、ここでも数学の指導をされるようになりました。興国高校の塾長対象の説明会の折、副校長先生から塩崎先生を紹介され、たまたま持参されておられました先生の『数学カード』を見せていただきました。私が教え子に勧めている勉強方法と全く同じで、自分の指導方法が認められた思いがして感激したことをよく覚えています。杉尾校長先生の口癖ではありませんが『良いものはいい』のです。興国高校からここ2・3年、数こそ少ないけれど、関西医科大学や大阪薬科大学といった私立大学の他に、一橋大学や神戸大学や京都大学の国立大学の合格者が出ていますし、東大を目指している子もいるのです。塩崎先生の存在が大きいものと私は考えていますが、興国高校生のやる気も大したものです。興国高校は6年間一貫教育の学校ではありません。君たち八尾高校と同じ3年間の高校生活の学校です。君たちも本気でカード式数学例題演習に取り組めば、更に素晴らしい結果を出せるのではありませんか。あれこれ手広くやるのではなくて、これ一冊に集中して何度も繰り返しやることが合格への近道なのです。    
 
 定期試験の成績が悪い時に、学校の先生としてはその部分を補習して生徒の実力をつけさせてやりたいと思われる気持ちはわからないわけではありません。そのような『授業内容定着型補習』は一般的にどこの学校でも行われていることです。しかし私はそのような補習よりは、むしろ『年間計画型補習』の方が大学進学のことを考えた時、成果が上がると思っています。半年なり1年なり、毎週この補習に参加したら最後にはこれだけの『実力の蓄え』、例えば数学例題カードが出来上がるとか速読英単語が仕上がるとか、そのような補習を私は『年間計画型補習』と言っています。君たちは先生方にお願いして、これをやっていただいた方がいいのではありませんか。
 3 『王様の剣』の話
 
 さて、君たちはディズニーのアニメで『王様の剣』というのを知っていますか?円卓の騎士で有名なアーサー王の少年時代のエピソードを描いたものです。当時、国は乱れそれを嘆いた神様がロンドンの街に天から剣を落とし、その剣は石にささりました。その剣を石から抜くことが出来た者がこの国を治めるにふさわしい国王であると、金文字で剣には書かれてありました。国中の力自慢が剣を抜きに来ますが誰も抜くことが出来ませんので、やがてその剣のことは忘れられていきます。その国には痩せっぽちで小さな少年アーサーがいました。まわりからはワートとよばれ、12歳くらいのみなし子でした。あるお城で下働きをし、城主の息子で力は強いが馬鹿な若者の世話をしていたのですが、ワートはふとしたことから魔法使いのお爺さんマーリンに森で出会います。ワートを未来の王様と予言していたマーリンによって、魚や鳥あるいはリスに姿を変えてもらって海の世界や空の世界を冒険し、様々な経験を通して生きるための勇気と知恵と愛をワートは学んでいきます。ある時、その国で武芸を競う大会があり、そのバカ息子のお供で試合会場に出向きますが、大切な彼の剣を持って来るのを忘れます。大目玉を食らい、すぐに剣を調達するように命ぜられて町中を探すのですが、偶然見つけたのが石にささっていた剣でした。何も考えず躊躇なくそれを抜きとって息子の元に持って行きます。さあ大変!みんながその剣は『王様の剣』だと気付きます。こんな痩せっぽちに抜けるはずがない。何かの間違いだろう。もう一度抜くところを見ようじゃないか、と試合はそっちのけで石のところに人々が集まります。もう一度剣を石にさしてからそのバカ息子が力いっぱい引き抜こうとしますが、びくともしません。アーサーがやるといとも簡単に抜けるのです。人々は彼こそが神の言われる王様に違いないと認め、今まで偉そうにやっていたバカ息子も彼の前にひざまずくのです。
 
 この話は何を言おうとしているのでしょうか。国のリーダーとなる者は武芸や腕力だけではなく、見聞を広め、知識と知恵を身につけ、人格を磨かなければならないことを示しているのです。魔法使いマーリンは『知識こそが魔法の鍵だ』と言いたかったのです。そしてそれはまさしく、現代の世界では『何のために勉強するのか』を表現しているのです。日本では『エリート』という言葉は、勉強は出来るが身勝手で心の冷たい人間を表すとして、マイナスのイメージが強いです。しかし、本来そのような人間はエリートでもなんでもないのです。単に記憶力が良いか情報処理能力に優れているだけの人間です。『真のエリート』とはグローバルな世界のリーダーとして、専門的知識を持ち、自分の頭で考え、自分で正しい判断が出来、その判断と行動に自分で責任が取れる人間、そして他人の心の痛みがわかる人間のことを言うのです。人的資源に乏しい日本は言うまでもなく、今世界に求められているのは『真のエリート』なのです。八尾高校120年に近い歴史は、そういった人材を生み出すために努力されてきたはずです。君たちはその歴史と文化に身を置く八尾高校生なのです。その自信と誇りと責任を自覚して欲しいと思います。
 
 4 『学校の授業』と『自分の勉強』の大切さ=具体的な学習の進め方
 
 では具体的にどのように学習を進めていけばいいのでしょうか。それは『学校の授業』と『自分の勉強』を大切にすることです。このことは須原英数教室の教育指導理念でもありますが、この言葉に尽きると考えています。よく『塾の勉強さえしっかり受けておれば、学校の授業や成績は気にすることはない』という言葉を耳にしますが、これは間違っていると思います。私の経験では、授業中居眠りをしたり内職をしたりして『学校の授業』を大切にしない子は、たいてい自分が思うほど実力は付かず、従って第1希望の大学にも合格はできていないと思います。仮に首尾よく希望の大学に進学できたとしても、自分でテーマを見つけ
て進めていく大学の講義では、学力を伸ばすことは難しいでしょう。
 『学校の授業』を大切にするとは、ただおとなしく授業を聞いていることではありません。例えば数学を例にとりますと、先生が黒板に式を書いておられる時に『そうそう、そこから先は多分このような式を書くはずだ。やっぱりなぁ…。参考書の例題にのっていた通りだ。何ならその先は先生に変わって今日は僕が指導しようか?』とか『あれ!先生は違った式を書いているぞ。これは別解だなぁ。やっぱり先生はよく知っているんだなぁ…。これはメモしておこう。』といったように、実際に授業中先生と直接会話をしているわけではないけれども、心の中で先生と数学の会話のキャッチボールしているような授業の受け方をすべきなのです。それが授業に参加しているという意味です。自分にとってはその授業が復習レベルに当たり、知識の確認になっていることが大切です。もう高校生なのだから自分にとってわからないところをわかるようにできればいいのです。そのための授業にすべきなのです。受動的な授業の参加ではなく能動的・積極的な授業への参加を心掛けるべきです。
 
 『学校の授業』を大切にできるためには、もう一つの『自分の勉強』も大切にしてしっかり授業の準備をしておかなければなりません。言いかえれば、それは『実力の蓄え』を作りこれを反復学習することです。例えばこれも数学を例にとりますと、この冬休みは次の3学期に学ぶ範囲をこのようなB6の無地のカードに問題を書き、裏にその問題を解いて行くのです。チャートでもフォーカスゴールドでも参考書は何でも構いません。しかも例題だけでいいのです。練習問題をする必要はありません。3学期が始まれば折に触れてカードに目を通せば、先程話したように授業の中で先生と心の会話が出来るし、自分にとっては知識の確認としての授業になり得るのです。長期休暇は次の学期の蓄えを作っておく恰好の『自分の勉強』の場でもあるのです。数学1科目だけでも余裕を持つことが出来れば、クラブ活動や生徒会活動あるいは文化祭活動などに時間を取られていても、勉強に不安を覚えることはなくなります。勉強とクラブ活動などを両立させながら国公立大学を目指すことが出来るのです。将来大学で数学を研究しようと考えている生徒諸君や、数学が得意な生徒諸君にはお勧めできる勉強方法ではありませんが、数学のあまり得意でない子あるいは苦手な子は、数Ⅰ・A例題300題、数Ⅱ・B例題300題、合計600題をカードにして、繰り返し繰り返しやれば、センター試験で80%の160点以上は取れます。数学の好きな生徒なら90%の180点以上取れます。もちろん二次試験にも対応できます。これまでの経験から、私が保証します。誤解があったらいけませんので、念のために言っておきますが、私の話はすべて二次試験を念頭に置いたものです。ただ、センター試験の成績結果で志望校が決定される現実があるから、センター試験の話をしているだけです。
 
 それでは私が保証できる根拠を皆さんに示しましょう。一つは私の教室の進学実績です。宣伝するつもりは毛頭ありません。確かに秀才型の優秀な生徒も何人かはいましたが、私の教え子たちの80%から90%は僕や君たちと同じ努力家たちです。初めて大学受験生を送り出した16年前から記録し始めて、今年の春までの大学進学実績は(合格実績ではありませんよ)、居候諸君128名の内(高校2年生9月から費用をいただいていませんので、そのように親しみをこめて呼んでいますが…)東大3名・京大6名・阪大12名・名古屋大学と九州大学は各1名で北大と東北大を除く旧帝国大学に23名=約20%が進学しています。これに神戸大学6名や地方の国立大学を加えますと47名になります。更に公立大学の大阪市立大学9名などを加えますと、国公立大学にはおよそ半分の61名が進学しています。慶応・早稲田・関関同立と言った、いわゆる難関私立大学を含めますと80%前後の進学実績になります。更には、その中に東大・京大などの医学部に1割に当たる13名が進学しているのです。大阪市立大学の場合は、9名の内5名が医学部に進学し、内2名は首席合格でした。自慢たらしく聞こえたらごめんなさい。自慢ではないのです。先程話をした君たちの先輩の悠二君のように、君たちと同じ普通の子たちが、きちんと勉強すれば道は開けると言いたいのです。現に医学部に進んだ13名の内、親が医者であるのはたった2名で、11名は普通の家庭の子たちです。実は岡山の県北で無医村の医師をしていた僕の無二の親友がいました。大重宗比古君と言います。彼は38度の熱が出ていても、真夜中に一つ山越え二つ山越えて車で往診に行くという、使命感に燃えた医者でした。過労がたたったのか47歳の若さで急死しました。金儲けではなく、病気で困っておられる患者さんのためになる医者こそ必要なんだ、と時々教え子にそのような話をするから医学部や薬学部を目指す生徒が多いのではないかと思います。ほとんどの子がクラブ活動や文化祭活動などをこなしながら、中には2つもクラブ活動をやりながら、自分の希望校に進んでいる子も何人かいるのです。
 
 もう一つ、私が保証できる根拠をお見せしましょう。スライドを用意していますので見て下さい。これはある私立高校の塾長対象の説明会でいただいた資料です。今月上旬この高校に出向きまして、皆さんに見せることのお許しを得ています。男女共学にされて6年になりますが、その6年間の統計資料です。この学校は塾長対象の説明会において配布される資料が豊富で、しかもその学校にとってはつらいことでも正直に出しておられますので私は毎年出かけます。私には一つ経験的な持論があります。それは『中学入試の駸々堂模擬テストで偏差値50点以上の子や、高校入試で五ツ木模擬テスト偏差値60点以上の子は大阪大学や神戸大学に合格できる能力がある』ということです。誤解してはいけませんよ。全員が行けると言っているわけではありません。きちんと勉強して努力した者は大阪大学や神戸大学合格が非常に有望だと言っているのです。それを裏付けてくれているのがこの学校の統計資料なのです。
 文理学科が出来て2年になりますが、私の考えでは高津高校や生野高校の文理学科を残念ながら落ちて後期八尾高校に入学した子、偏差値で言えば63点以上の子はおよそ1割前後いるはずです。すなわち30人くらいはいるはずです。偏差値60点以上の生徒諸君は約3分の1の100名以上いるはずです。偏差値57点以上の成績で入学している子は80%近くいると思います。
 資料を見て下さい。黒い線で囲ったり、合計人数を書いているのは私が手を加えた部分です。八尾高校と大変よく似た偏差値レベルです。勉強だけをやっている高校ではありませんよ。クラブ活動も非常に熱心です。偏差値57点から63点まで、四角に囲った範囲の合格者合計を見て下さい。八尾高校で言えば、成績通知票のランク2から8くらいの生徒諸君でしょう。名古屋大学1人、京都大学2人、大阪大学7人、神戸大学15人、大阪市立大学6人、大阪府立大学18人合計51人の『現役』合格者がいるのです。239名中51人ですよ!これは21.3%です。八尾高校のランク2から8までの生徒は、320人×0.7ですから224名です。ランク1の生徒を除いても、まだ約50人はそれらの大学に現役合格できる可能性があると考えられるでしょう?現に柔道部にいたランク7の子が、今年大阪大学外国語学部に現役合格したではありませんか。自信を持って下さい。やればできます。
 5 八尾高校生としての自信とプライドを持つ=高い志の実現に向けて
 
 冒頭でも触れましたが、120年近い歴史の中で、1・2年生対象に勉強合宿をすることは八尾高校始まって以来のことです。先生方にはそれだけ君たちに対する期待があり、熱が入っているのです。しかもその学習内容は自由で『自学自習』を中心とするものらしいですね。実はこれは素晴らしい勉強方法なのです。なぜならば、それは京都大学の教育基本理念であって、私の教室はそれを手本としてずっとやって来て、『自学自習』の良さがよくわかっているから、そう言えるのです。少し難しい話をすれば、グラッサーという心理学者の『選択理論』の実践ともいえます。グラッサーは人間の行動を決めているのは外的要因ではなく、内的要因である自分たち自身の選択によるものだという考え方です。この考え方に基づいた教育こそ『上質の教育』だと言われていて、アメリカではかなりの実践的成果が出ているようです。『何をやっても自由』という学習方法は一見楽なように見えますが、実は最もハイレベルで難しい勉強方法なのです。なぜならば『何をやっていいのかわからない』レベルの生徒には役に立たない勉強方法だからです。表面的には同じ勉強をやっていても、強制的に受身でやっている勉強つまり『やらされている勉強』と、そうではなくて自分がこれをしようと思って取り組んでいる『自主的な勉強』とは中味は全く違うのです。心の持ち方が違うから、自主的な勉強はすればするほど実力が身について、気がつけば思ってもいなかったハイレベルな大学に合格できるようになっているのです。私の教え子はほとんどがそういう子たちです。
 
 勉強合宿は今日と明日の2日間です。たった二日と考えるのではなくて、まるまる二日あれば『何かできる』と考えて、『私はこれをやろう!』と取り組めばいいのです。それをきっかけにこの冬休み、正月3日間くらいは勉強のことを忘れて思い切り遊んでもいいけど、『1週間あるいは10日でこれを仕上げるぞ!』といったメリハリのある集中した勉強をすべきです。さっき話した数学の参考書の例題演習でもいいし、英文法の問題集でもいいのです。何を勉強していいのかわからない生徒は、先生に相談に行けばいいのです。しかし、相談をしても決断を下すのは君たち自身です。君たち自身の勉強だからです。
 
 10年ほど前に、高安中学校から天王寺高校に進学した生徒がいました。入学して最初のホームルームの時間に、担任の先生から『今から東京か京都か決めなさい!』と突然言われて、僕の教え子はわけがわからず質問したそうです。『東京か京都かって、どういうことですか?』すると先生は『おまえはアホか!東京大学か京都大学かに決まっているやろ!今ここで目標を決めろって言ってんねんや!』そこで私はその教え子に、君はどう答えたのかと聞きました。すると彼は『へぇ~、僕でも京都大学に行けるのか…と思って、じゃあ京都大学にします、と言いました。』というのです。この子は高安中学校で3年間、天王寺高校でも3年間ラグビーをやり、1年浪人はしましたが京都大学農学部に進学し、そこでも4年間ラグビー部に所属し、副キャプテンまで務めました。入学時の早い段階で、高い志を生徒に持たせるという天王寺高校のやり方は実にうまいと思います。真似をするわけではありませんが、君たちも京都か大阪か神戸か、今決めなさい。今からでも遅くはありません。八尾高校生の君たちならば、京都大学や大阪大学・大阪市立大学・大阪府立大学・大阪教育大学そして神戸大学といった大学に進学できる能力は十分にあるのです。あとは努力です。クラブ活動をやっていてもいい、生徒会活動をやっていてもいい、文化祭活動をやっていてもいい、その他の活動をやっていてもいいのです。しかし勉強もそれ以上にやりなさい。君たち学生の本分は勉強だからです。勉強と両立できてこそ、八尾高校が目指す文武両道が成り立ち、骨太の人格者が出来上がるのだと思います。やればできます。八尾高校生としての自信とプライドを持ち、高い志を実現してくれることを願っています。私も八尾高校の応援団長としてできる限りの協力はします。君たちも頑張りなさい!私の話を聞いてもらって、どうもありがとう!
 
 勉強合宿 実施後アンケート(記述回答)
1)須原先生の講演を聴いて、感想・意見・質問、あるいは新たな決意等、何でもいいですから書いて下さい。
 
1年生
 
*八尾高に入ったことを誇りに思った。私も上を目指して頑張っていこうと思った。先生が紹介していたZ会の速読英単語や数学カードはやってみようと思った。八尾高は、先生やPTA、同窓会、地域の人などいろいろな人に支えられていてこんないい環境で勉強できているからもっと勉強しようと思った。
 
*須原先生の講演は、高校に入ってから聞いた大人の話の中で一番心に響いたし良かった。熱がこもっているのがうれしかったし、学校の先生の中にもこんな人がいてほしいなと思った。自分は今まで塾に行ったことないけど、須原さんの塾なら入ってみたいなと思った。
 
*須原先生の講演を聞いてからとても勉強する気が出てきました。これからも八尾高校に来てもらって勉強するのに役立つような情報や参考書を教えてもらいたいです。須原先生がおっしゃったことを家に帰ってからやりたいと思います。
 
*講演を聞いてとてもすばらしいと思ったし、自分にも可能性があるんだなあと思った。本当にあの講演は熱意がこもっていて心に響いた。もっと努力して勉強しないといけないと思った。
                                    
*塾はいいものだなっと思った。
 
*正直言って普段聞いている講演などはとても眠たくなったりするけど、須原先生のおっしゃっていることは自分のためになることばかりで、いつもの講演とは違うなと思いました。
 
*もうあかんなーってあきらめてたけど、今からでもできると分かってがんばろうと思った。すごくいい経験になった。
 
*努力すれば天才にも勝てることが分かってうれしかった。
 
*すごく熱が入っていて政治家の演説みたいで、よほどその部分は大事だと感じた。
 
*須原先生のお話を聞けて良かったです。私は秋まで成績が伸びなかったのですが、12月のテストでぐーんと伸びました。このままもっと頑張っていこうと思っているところに先生の話を聞けたので、やればもっと成績が上がるのかと思いました。先生が「八尾高生の君たちならできる!」そう言ってましたよね。本当に頑張ろうと思いました。なんて表現すればいいか分からないんですが、かっこいいなと思いました。頑張ります。
 
*須原先生は何かわからんけど人間的にすごいなあと思った。自分でもできるんかなと思えた。数学のカード式やってみようか迷ってます。本当に話を聞けて良かった。ありがとうございました。
 
*先生の話を聞いてとても勇気がでました。君たちはできるんだと言ってくださった時、私も今から一生懸命頑張ったらいい大学を目指せるのだと思いました。そして色々なデータを見せてくださったり、昔の教え子の話をしてくださったり、根拠ある話をされて、とてもやる気が出ました。
 
*教育のことについてとても熱心で、世の中の先生みんなが須原先生のような情熱を持った先生だったら良いのになと思った。自分ではできないと思っていても、やる気があればできないことはないんじゃないかと思った。
 
 
2年生
 
*話の中で言っていた数学のカードを作ってする勉強法はやってみたいなあと思いました。勉強は誰かにやらされるものではなく、結局は自分に厳しくするしかないんだなあとあらためて感じました。
 
*個人の塾なのに東大や京大などの合格者を何人も出しているのはすごいと思ったし、  夫婦二人だけで教えていることもすごいと思いました。私は数学も英語もとても苦手で勉強方法が分からなかったので、須原先生のおっしゃってた速読英単語を書店で見てみよう思うし、チャート式などの問題集をカードに書こうと思います。須原先生の話はとても分かりやすくて楽しくて、聞いていて勉強もっと頑張ろう頑張れると思いました。いい体験ができました。
 
*須原先生のお話を聞いている最中に突然思ったことは、今まで無理だろうと思い、あこがれではあるがあきらめの気持ちで忘れかけていた大学を、目指してみようかということである。なぜその大学名が出てきて、そこに行きたいと思ったのか分からない。須原先生の生徒への眼差しとか暖かさを感じて、大学の先にある自分の人生を良い方向に進めていきたい、と人生について考えたからだろうか。
 
*もう少し早く聞いて始めれば良かったなあと思うことが多かった。あれだけ八尾高校のことを大切に思ってくれている人がいることは嬉しかった。今からでもできることはあると思うからから始める。
 
*須原先生の話を聞いて、今からでも遅くない!今から真剣に勉強したら行きたいところに行けるってホンマに思った。数学のあのカードはすごかった。めっちゃキッチリ書けてて分かりやすいなあって思った。自分は塾いったことないから、どんなんが普通なんか分からんけど、スゴイねんなって思った。
 
 
 2)勉強合宿を終えて、感想・意見・新たな決意等について書いて下さい。
 
1年生
 
*最初はすごく嫌でした。でもやっていくうちに集中できたし、勉強がはかどりました。久しぶりにこんなに勉強した気がします。勉強合宿に参加できて良かったです。
 
*自分にあった勉強ができたと思えました。はじめは参加するのが嫌だったけど、参加して良かったと思いました。ありがとうございました。
 
*自習の時間は集中できる空間があって良かった。講習では予習する大事さが分かったし、勉強合宿を終えて達成感を味わえたのでとてもいい経験になった。こんなに長時間勉強したのは中学時代の受験勉強以来のことだ。
 
 
*家ではこんなにも勉強することは、冬休み中はなかったと思うし、宿題も結構終わったから良かった。ご飯の時のティラミスとかスープとか豚汁美味しかった。ただ、夜11時まで勉強というのはキツイし眠たくなった。お風呂がセミナーだけでは少なく思った。これからも頑張ろうと思う。
 
2年生
 
*想像していたよりもとても集中できて、講習も早朝は受けたことがあったけど、夜に受けたことがなかったので、少し眠かったけど新鮮だったし、とても良い経験になりました。犬飼先生の豚汁も、澤田先生のティラミスも、校長先生のスープもとても美味しかったです。ありがとうございました。また機会があれば実施してほしいと思います。楽しかったです。ありがとうございました。
 
*とてもつらかった。一日中勉強していると頭が痛くなった。でもこんな体験はなかなかできることではないし、友達と一緒だから頑張ることができたと思う。なのでこの合宿に来て良かったと思う。これからも勉強を頑張らなきゃという気持ちにさせてもらった。
 
*冬休みの課題をしようと思っていても手をつけられずにいたが、この勉強合宿のおかげでだいぶ課題が進んだ。卒業生のセミナーで、段階7だった先輩が現役で大阪大学に受かったり、八尾高生で京都大学に現役合格したと聞いて、自分も先輩方みたいに頑張ろうと思った。話を聞いて行きたいという気持ちを全面に出して頑張れば行きたい大学に行けるんだなあと思った。そんなかっこいい先輩方を目指して新学期は生まれ変わって学校の授業を大切にしていきたい。
 
*集中して勉強することができて良かった。集中をそぐネットや漫画のない環境で、一日中勉強することができたので、案外普段は「ないと無理!」と言っているものがなくても生きていけるもんなんだなと思った。一度やって少しなれた気がするので、家でも集中できると思う。ただ、合宿中は時間がきっちりと決められていたので、今やっていることを途中でやめないといけなかったのが不完全燃焼な感じがした。また機会があったら参加したいです。先生の豚汁美味しかったです。
 
  以上すべて生徒諸君の原文通りです。
 
 60名の定員に65名が参加した1・2年生対象の勉強合宿でした。終了後二つのアンケートに全員が応えてくれています。ここに紹介していますのはそのごく一部で三分の一にもなりません。自分が通っている八尾高校に誇りを持った子、『学校の授業』を大切にしようと思った子、大学進学に向けて勇気と自信を持ち出した子、『自分の勉強』に対してやる気を起こした子、そして何よりもアンケート(2)の2年生最初の生徒が書いていますように(同じ内容の記述が沢山ありました)学校の先生と生徒諸君との距離が身近なものになり、より深い信頼関係が結ばれたことなど、嬉しい感想文で一杯でした。私は感激しました。
 照れくさくはありますが、少し手前味噌なことを言わせていただければ、この三十数年間教え子の指導において積み上げてきた実績と経験があったからこそ、八尾高校生の心を動かすことが出来たのではないかと思っています。ただそれが、想像以上の手ごたえがあったことに驚いています。八尾高校の生徒諸君!ありがとう。頑張ろうね!
 『八尾高校生を励ます』講演をやらせていただけて、これまでの自分の考えを実証・確認できる機会を与えて下さったことに対して、杉尾校長先生はじめ八尾高校の先生方・同窓会の方々に、私は心から感謝しています。ありがとうございました。

今解き教室

2012-11-11
  私の教室では従来から国語の指導に力を入れています。日本語を理解し、日本語で考え、日本語で表現できる力、いわゆる国語力は『5科目の要』だと考えているからです。国語を真面目に勉強している子は、日常生活においても思慮深くなり、反抗期を迎えても簡単に『キレる』ことも少ないように感じます。更に、高校受験や大学受験における小論文を書く時に力を発揮するだけではなく、大学や大学院で学ぶ際にもその論理的思考力がきっと役に立つ場面があるだろう思います。PISA型教育を充実させようと思うならば、国語力を養成することです。
  しかし、この読解力・思考力・表現力は中々身につけるのが難しく、成果が目立って目に見えるものではありません。多くの塾がその必要性を認識していても、漢字や語句の練習で終わっているのはそのためです。また、中々良い教材がないのも確かです。そのような折、妻のきよみが『これいいんじゃない!』と『今解き教室』の記事を見つけ、インターネットで詳しく内容を把握して、早速朝日新聞社に申込をいたしました。ところが、『今解き教室』は学校・大手塾対象で、50人からの契約とのこと、何度か責任者の村上さんに直接お電話をして交渉し、ようやく10人からの契約で使えることになりました。
 4月22日(日)、『学習塾百年の歴史』出版報告会で上京した時、宿泊したホテルの目の前に朝日新聞本社がありました。機会があれば無理を聞いていただいたお礼などを申したいと思っていましたので、翌朝アポイントもないのにお邪魔しました。突然の訪問にも関わらず、ジュースをごちそうになりながら、『今解き教室』についての意見交換等をさせていただきました。詳しくは妻が以下に書いてくれていますが、『今解き教室』は私の知る限り最高の国語教材だと考えています。『学校では、校長先生がやる気でも、負担が大きいと言って中々一般教員の方で採用してもらえないんです』と村上さんが言われるように、指導者の指導力を試す教材でもあると思います。『関西では今解き教室を使っていただいている個人塾は須原先生のところだけです』とも話しておられました。小学4年生から大学受験生まで、国語の指導はすべて妻が引き受けてくれています。
『国語教室』は私の教室の特徴を成す大きな柱の一つです。3年目を迎えた『今解き教室』の指導について、経験に基づく妻の感想をお読みいただければ幸いです。
   急きょ月2回、2時間ずつの特別時間割を作って、テキストはL2(当時は小学4・5年生対象のL1・小学6年から中学2年を対象としたL2の2種のみ)を使用しました。2年目以降は何名からでも申込可能となったのですが、結果的には公立中3生7名私立中3生4名の計11名で、従来からの『国語教室』の時間に組み入れて行いました。テキストはL3(L3はこの年度だけの製作でしたが、記述問題が豊富でとても良いものでした)を使用し、高校入試対策の一環としても役に立ちました。3年目となる今年は8名で、同じく中3の『国語教室』の教材として使っていますが、残念ながらL3はなくなったため代わりに新たに作られたL2発展編を使用しています。
 朝日新聞社による『今解き教室』の紹介として「朝日新聞に掲載した記事や写真、図表などを活用して、現代社会が抱える問題について考える新しい総合教材…中略…将来社会で求められる『生きる力』を身に付けることができる」とあります。その意図にどこまで近づけているかわかりませんが、発行当初から実際に使ってみての感想をいくつか述べてみたいと思います。
 先ず『今解き教室』の他教材との決定的な違いは、『現在の社会』の様々な事象が、歴史的な背景や未来への展望も含めて、わかりやすく解説されている点にあります。上記紹介文にあるように、実際に掲載された写真や記事など新聞の特性を活かした教材だと思います。『自然・環境』『生活・社会』『政治・経済』『科学・技術』という4つのジャンルから毎月一つ、例えば『地球温暖化』『日米関係』『宇宙開発』『少子高齢化』『裁判員裁判制度』など今現在の多様なテーマが取り上げられています。その中には『ゴミの分別』『インフルエンザ対策』『食卓のマグロ』など生徒たちの身近な話題も沢山あり、自身の現実の問題として向き合うことになります。こうして生徒たちは現在の社会の姿を学ぶことによって、他ならぬ自分の問題としてとらえる能動的姿勢を身につけ、興味・関心の幅を多方面へ広げることにつながっていく、と感じます。これは生徒のみならず私自身も実感するところで、授業準備のためにテキストを読んでいて、『こんな見方もあるのだな』とか『最近よく耳にするがこういうことだったのか…』などと学ぶことも多く、毎回新しい発見を楽しみにしています。授業の場でも、私の経験などを織りませながら生徒と一緒に読み解いていくように心掛けています。
 そして、こうした特徴を支えているものの一つがデータの豊富さです。テキストには様々な形態の図表・グラフ・統計等の資料が数多く掲載されています。右図のようなわかりやすい図解・それに続く詳しい解説に加えて、豊富なデータ類がより理解を深めてくれます。また、現代社会では日常生活においても様々なデータ処理能力が求めら
れます。そのため授業においても、データの正しい読み取りができるように特に留意しています。
 さらに、身近な話題から始まり、地域社会⇒日本⇒世界へと視点を移し、データを世界地図上で図示して世界と日本の関わり合いに目を向けるコーナーもあります。テキスト全体を通して世界的な広い視野が重視されている点も見逃せません。これは今後更なるグローバルな世界を生きてゆく子ども達にとって欠くことのできない視点です。こうした教材を通して、世界に目を向ける態度が根付いていくことは大きな意味を持つと思います。その他、新聞記事を読むことで語彙力・読解力がつく点、要点をまとめたり、自分の考えを述べたりする作文力がつく点など利点は数多くあります。
 先日お会いした村上氏が、お話の中で『今年の東京の某中高一貫公立校の入試問題に「都市鉱山」についての作文が出題され、「今解き」で学んでいた生徒が、模擬テストの結果からは合格が危ぶまれていたにもかかわらず見事合格した』とおっしゃられていましたが、私も『なるほど、十分考えられることだなぁ』と納得しておりました。話をお伺いしながら、私の教室の生徒がもし同じ立場ならばきっとしっかり書けていただろうと生徒たちの顔を思い浮かべていました。現に昨年度、積極的に学習に取り組んでいた生徒は国語力・作文力がぐんとアップしました。その中でも天王寺高校文理学科に合格した富井択音君は回を重ねるごとによく論点を把握できるようになり、数多くの300字前後の記述をきちんとやりこなすことで大いに実力をつけてくれました。とても嬉しいことでした。
 さて、一方、生徒たちの応用力のなさを痛感する場面にも度々出くわします。言うまでもなく、一つの事象には教科で言えば、社会的・理科的・数学的側面が存在します。そのため『今解き教室』の問題 は科目横断的なものが多いのですが、理科的・社会的分野に関しては割合スムーズに対応できるのに、数学(算数)が関わってくると様子が一変します。
 数学力なくして今日の経済学が成り立たないのと同様に、様々な事象を正しく捉える上で数学的な物の考え方は不可欠です。『今解き教室』ではデータから読み取った数字を比較して関連を考えたり、割合や比を使って社会の動きをとらえたり、と各所に計算問題が組み込まれています。扱う数字自体は単純で計算式も平易なものばかりなので、単に計算問題として出題されれば難なく解けるのに、記事中の文章やデータから題意に合う必要な数字を読み取って自分で計算式を立てて……となると、これが中々出来ないのです。『教科の知識』が『実生活』と結びついていない良い例だと言えます。PISAの試験で結果が思わしくないこともうなずけるのです。
 以前からもこうした傾向が懸念され、そのため『総合的学習』が注目されてきました。最近では大学においても、文系・理系の枠を外した学部・学科・授業が行われつつあることも周知のことです。『ゆとり教育』の下で行われた
『総合的学習の時間』は、方向性は良かったものの余りにも準備不足のスタートでした。ほとんどの学校では適当にお茶を濁しただけの実りのないものに終わった、というのが現実です。
 けれども前号第125号教室だより『PISA型教育への警鐘』でも触れていますように、『ゆとり教育』のあの時期に『今解き教室』のような素晴らしい教材があれば、現場の先生方にとっても、生徒たちにとっても、どんなに有益であったろうと思うと残念でなりません。今からでも学校現場に取り入れて欲しいものだと思います。
 『今解き教室』は中身の濃いテキストに加えて電子教材までを合わせると、かなりの量になります。中3生対象といえども、月2回1回1時間半ずつの限られた時間では到底全てをこなすことはできません。そこで、生徒諸君には事前にしっかり読んで問題をやっておいてもらい、授業においては『これだけは』というポイントを中心にして解説を加え、問題をピックアップして一緒に考えてゆく、という方法をとっています。このような指導を可能にしているのは、日頃から『自分の勉強』を大切にする態度が生徒諸君に身についているからこそだと自負しています。こうして共に学ぶ中で、前述したように、興味や関心の幅を広げ、問題に対する能動的姿勢を身につけ、世界的な広い視野を持った生徒に育つための一助を荷うことが出来ればと願っています。
 
(『教室便り』第126号より)

PISA型教育への警鐘

2011-12-16
 9月24日(土)東京の正進社5階会議室で行われました、2011年度第3回教師と大人のための算数・数学講座『分数の割り算は逆数をなぜかけるのか』に出席いたしました。『教師と大人のための算数・数学講座』は上野健爾先生、岡部恒治先生、有田八州穂先生といった、数学・算数の教科書や参考書でなじみの深い、その世界では第一人者の先生方のお話を聞ける貴重なひとときです。大学の教授・学校の先生・大学生・数学に興味をお持ちの企業の方等出席者は多種多様ですが、算数・数学の指導法等についての活発な意見交換や発表がなされています。私のような個人塾の先生は、指導において毎年同じようになるマンネリ化の危険性をはらんでいます。そこで、少しでも新しい指導法や興味深い指導法を求めるとともに、時代の流れを敏感にとらえられるように、時間の許す限り機会を見つけてはこのような研究会等に参加するようにしています。2010年度第7回『角度をどう教えるか』(パナソニックセンター東京3階会議室、2011.2.27.)以来2回目でしたが、いずれも国際教育学会からのご案内によるものでした。
 今回、第2部で岡部恒治先生が講演されました『PISA型教育へ警鐘』は特に興味深いものでしたので、ここに一部ご紹介させていただきます。岡部先生は12年前に京都大学の西村和雄教授とご一緒に『分数ができない大学生』を書かれ、日本数学会から『出版賞』を受賞されている方です。先生のお話では、「文科省のホームページによるPISA学力調査とは『生きる力をはかる試験』であり、調査で成績が優秀であったフィンランドはその広告塔になっている。多くの教育関係者が視察に行っているが、否定的な報道はまだ現れてはいない。『ゆとり教育』は学力低下批判によって終焉したかに見えるが、実は『PISA型教育』は『ゆとり教育』の別バージョンだった。」と話をされて、「気になって調べてみると、①生きる力がトップのフィンランドは2000年当時自殺率が世界一、犯罪率もトップレベル。2008年に在フィンランド日本国大使館がメールマガジンで認めている犯罪件数については、日本の人口は約1億3000万人で、約530万人のフィンランドのおよそ25倍。フィンランドの殺人事件件数113件を単純に25倍してみると2825件。日本の殺人事件件数1458件のおよそ2倍になる。②校内で暴力行為が起きたらすぐに警察を呼ぶゼロトラレンスと教師の護身術演習が実施されている。③フィンランドの国の機関が行った中学生・高校生の生活調査の結果では、毎日喫煙する中学生14%・高校生24%、また、月に一度以上泥酔することがある中学生18%・高校生24%にものぼる。④フィンランドの高校生全体で10人に1人はうつ病の状態。」と話は続きました。そして最後に、2002年度の資料によれば、100万人当たりの自殺者が17カ国中フィンランドは1位なのに、これが文科省のいう『生きる力を測る』モデル国なのかと危惧されておられました
 国際的な経済協力を目的としているOECD(経済協力開発機構)が1988年より始めたのがPISA調査(Programme for International Student Assessment)です。この結果が大きな影響力を持つようになったのは、幼児教育から成人教育までの幅広い範囲で、OECDが教育政策の在り方を提言するためです。各国は自国の教育政策の改善や見直しを図ることになるのです。日本では『ゆとり教育』の弊害で学力が低下し、一方フィンランドはPISA調査でトップレベルの成績をおさめたことから、日本の教育者が一気にフィンランドの教育に関心を示すことになりました。
 九州で中学受験から大学受験まで『英進館』という塾を50ほど展開されている館長の筒井勝美先生は、実際にフィンランドまで足を運ばれその教育の実態を視察して来られました。国際教育学会では、私が入会させていただくまでは唯一の塾の先生だった方です。非常に教育熱心な方で私の尊敬している塾の先生のお一人です。その先生から、『フィンランドの教育ではエリートが育たないとフィンランドの国自身が頭を抱えている』と以前からお聞きしていましたので、人的資源に乏しい日本には『真のエリート』が必要だと考える私は、その頃からフィンランドの教育を真似することには懐疑的でした。日本とは比べ物にならない厳しくて暗くて長い冬を過ごすフィンランドの人々は、家族が暖炉の下に集まり、物語を代々伝承し、親が子供に本を読み聞かせる文化が根付いているのです。フィンランドの人々の読解力が優れていても不思議ではありません。文化も歴史も異なるのですから、日本には日本のやり方があると思います。
PISA型学力ということは、知識や技能を実生活の様々な場面で如何に活用できるかということです。ですから、最近では学校教育の中でプレゼンをする場面や機会が多くなっているのです。そのこと自体悪いことではありません。しかし、知識を重視する従来の日本の教育をいわば『基礎』と考えれば、PISA型学力はその『応用』ということになるでしょう。『基礎』も『応用』も、どちらも大切です。その両方を目指したのが本来『総合学習の時間』だったように思います。ただ、『総合学習』を成功させるには、①指導する者にも指導を受ける者にも相当豊富な知識が必要なこと、②例えば、朝日新聞社が3年前から出版している、科目の枠を超えた『今解き教室』のような素晴らしい教材が存在すること、③指導者にそれ相当の指導力が要求されること、が考えられます。ところが、『ゆとり教育』によって知識は乏しいものになり、当時そのような教材もなく、指導者もどう指導していいか手探りの状態でした。目指したところは良かったが、失敗するのは明らかでした。2007年11月5日の毎日新聞『教育の森』の中で、有馬朗人元文部大臣はゆとり教育に対する準備不足を反省しておられます。最低5年くらいの準備期間を設け、先ず力量のある指導者の養成と教材作りをするべきだった、と私は思います。しかしそれでもなお、知識の量を減らしていたのでは、やはり成功はおぼつかなかっただろうと考えています。
 学習指導要領が改訂され、知識の量も3割増えて、従来型の日本の教育に戻りつつあります。せっかく教育の立て直しがなされようとしているのに、『生きる力』の名の下に、フィンランドの教育を押し付けられたのでは堪ったものではありません。フィンランドの教育の実態と社会の様子をもっとよく観察すべきです。
岡部先生のPISA型教育への警鐘はその第一歩だと考えています。
 
(『教室だより』第125号より)

学校との連携

2009-12-18
 子育ての続きの話になりますが、学習指導の面での学校と塾との連携の具体的な例を、お知らせしたいと思います。私はかねてから、『教える』という原点は同じなのだから、生徒の学習指導におきましても、学校の先生と協力しあって指導できればいいなと考えています。ここ数年、それが広がりつつあり、嬉しく思っています。保護者と学校の先生と塾の先生と三位一体となって、子供を育てることができれば素晴らしいことです。
 
 12月11日(金)上本町のホテルアウィーナで、全国学習塾協会主催『塾長対象入試相談会』がありました。高校受験生の相談に、K高校のブースを訪れ、親しいA先生にお会いしました。その受験生の相談はすぐに終わり、高校3年生のS君の話になりました。S君は真面目な努力家の生徒です。私の教室へは中学2年生の秋から通塾し始め、今も奈良の大仏殿の近くから1時間余りの道のりを通ってくれています。高校受験で念願のK高校に進学し、その時以来A先生は彼のことを高く評価して下さり、『東大を目指せ!』と激励していただいておりました。ただ、当のS君は仏教に興味があり、その道では最高峰と言われている東北大学文学部を考えていたのです。しかし、2年生の終わりころまで、バスケットボールクラブに熱中し、3年生になった頃の実力では、希望を叶えることはとても無理だろうと私は考えていましたし、恐らくA先生もそう思っておられたことと思います。今年もこれまでに2・3度先生とはお会いしていましたが、口に出して言わなくても、状況はお互いにわかっているという気持ちでした。ところが秋ごろから成績を伸ばし始め、これなら可能性も十分に出てきたな、と思えるところまで実力をつけてきました。今度A先生にお会いした時は、きっと先生も喜んでくださるだろうと、意気揚々とブースに行きましたところ、いつもにこやかなA先生の表情がだんだんくもり、やがて語気を強めて腹を立てておられる様子に変わりました。私は訳が分からず、先生のお話をよく聞いてみることにいたしました。毎週1・2度あるA先生の授業にS君は欠席し続け、ここ1ヶ月近く顔を見ていないとのこと。最後の詰めの段階で、学校の授業をいい加減にする子は、希望の大学に落ちるケースが多く、それを嫌というほど見てきているからと、心配して下さっていたのです。今が肝心な時なのに油断しているのではないかと、少々腹を立てておられたのだと思います。S君の欠点は、調子が良くなるとすぐに油断するところにあり、私の教え子には『学校の授業』を大切にするようにと指導していますので、A先生のご心配はもっともだと思いました。
 その夜、S君が教室へやって来ましたので、私の部屋に呼び、今日の出来事を伝えるとともに、彼から事情を聞きました。実は、前日も教室へは勉強に来ていたのですが、少し顔色も悪く元気がないので、『お久しぶり~ね♪』と久しぶりに顔を出した彼に、鼻歌交じりで元気づけていました。一週間ほど顔を見せなかったのは、どうやら体調がすぐれなかったのが原因だったようですが、A先生とのお話を詳しく聞かせました。そして明日にでも、ご心配をかけたお詫びとお礼を述べてくるように言いました。
 翌朝、彼は早速A先生の所にご挨拶に行ったそうです。事情のお分かりのA先生は、S君の顔を見るなり、開口一番『何でここにおんねん。エヘヘ…。須原先生にチクッたった。』と言われたそうです。そのような言葉が先生の口から出ること自体が、A先生が私を信頼して下さっているからこそだと思っています。彼はお礼とお詫びを述べた上で、これからも油断しないで頑張る旨を先生にお伝えしたそうです。先生に学校での彼の様子をお聞かせいただけたからこそ、彼が油断しないで勉強に再び励むことができたのです。ありがたいことでした。
 この他にも、6年間一貫教育の進学校であるN学校のS先生は卓球部の顧問をされていたのですが、中学時代のU君が成績不振で退部せざるを得なかったことを、ずっと心配して下さっており、『勉強をすればできる力を持っているのですが…。須原先生、よろしくお願いします』と、昨年教室来訪の折にお話いただけました。丁度その時、高校2年生の2学期を迎えていたU君は、ようやく勉強をし始めていた頃で、S先生のお気持ちを伝えると、彼はにこにこしながらS先生のことを語り始め、当時お世話になったことを、いろいろと教えてくれました。このことも一つのきっかけになったのでしょう、U君は本気で勉強に打ち込み始めました。3年生初めの実力ではとても無理だろうと思えていた大阪大学も、十分合格可能性が出てまいりました。秋に今年も来訪されたS先生は、彼の成績向上ぶりをお存じで、『この勢いでは合格できそうですね』と喜んでおられました。
 野球部で活躍していましたK君は、中学2年生の時に足首を骨折し退部せざるを得なかったけれども、勉強も頑張ってほしいと、現在N学園高校3年生のK君のことを、いつも気にかけて下さっているF校長先生の存在。私立校ばかりではありません。公立高校進学トップ校に通うYさんの進路について、心配してご連絡いただくY先生の存在。枚挙に暇がありませんが、最後に私立S学園高校2年生のI君の話をお知らせして、終わりにします。
 I君は6年間一貫教育の進学校S学園に入学しました。中学入学試験の成績結果がトップレベルだったようで、H副校長先生が教室を訪問して下さり、『しっかり育てて、きっと東大か京大に合格できるように指導します』とお話なさり、こちらが恐縮する思いでした。中学に入ってもそのまま私の教室にも残り、勉強を続けていたのですが、成績は徐々に徐々に下がって行くばかりでした。私の目からは勉強不足は明らかでしたが、本人は気にする気配もなく『勉強はやっています』と飄々と言うばかりでした。落ちるところまで落ちて、自分で頭を打ち、目がさめるまで放っておかないとわからないなと思い、そのままにしておきました。気にしていただいていたのは、私よりもむしろ副校長先生の方でした。時々先生には食事をご御馳走になるのですが、その度に『I君はベンツのエンジンを積んでいるけれど、ガソリンが入っていないのではありませんか』と、上手に言われるのです。一緒に入学したT君の成績がトップレベルまで伸びているのに、どうしてI君は伸びないのか不思議でたまらない、といったご様子でした。9月頃、とうとうH先生は『中間試験の後で、成績が伸びていなかったら、私が個人懇談をします』とおっしゃっていただきました。私はとてもありがたく思い、『是非お願いします。ご両親も教育熱心な方で、教室個人懇談会ではいつもご夫婦で来られるほどですから、きっと喜ばれます』と返事をいたしました。ついに実現の運びとなり、理事長室でH副校長先生・担任・学年部長・学年主任の4先生と、I君とそのご両親と弟の4人での懇談会が行われました。当の本人は相変わらずの様子だったようですが、ご両親と弟(同校中学1年生で私の教え子でもあります)は相当緊張したようで、その夜、懇談を終えた足で、ご報告とお礼にお父さんが私の教室へ来られました。このようにわが子のために親身になって個人懇談会を開いていただき、感謝とともに非常に光栄に思っていると、感激されておられました。
 ベンツのタンクは大きいですから、少々ガソリンを入れても中々満タンにはなりません。この懇談会がきっかけで、I君もようやく勉強に身が入り始めた様子ですが、まだガソリンは半分程度のようです。彼は第1希望が東京大学ですから、早く満タンにして力強くアウトバーンを走ってほしいと願っています。滅多に懇談会などされない副校長先生に懇談をしていただき、この子は幸せな生徒だと思います。H先生には私も心から感謝しています。
 個人塾は、恐らくどの個人塾も自分の教え子に対する情報が豊富です。学校の先生と協力しあえれば、きっと生徒指導に役立つと思うのです。学校と塾の垣根を外し、そうなることを願っています。生徒や保護者から進路の相談を受けたとき、私はそのような先生のおられる学校を、『いい学校ですよ』と勧めるようにしています。
 
(『教室だより』第123号より)

子育ての『第三者』

2009-12-08
 前号の教室だより第122号で、『大学受験体験記』を寄稿していただいた原さんとは、幹太朗君・知代ちゃん・光平君の3人を指導し、13年間のお付き合いでした。今でも彼らのお母さんと道で出会ったりしますと、3人の様子を聞かせていただいたり、何か困ったことがあれば相談に来られたりしています。いつも頼りにしてもらって嬉しく思っています。夏に私の所を訪問された折、お母さんは興味深い話題を提供して下さいました。
 
 『何かの本で読んだのですが、「子育て」には親だけでなく、第三者の存在があった方が良い、とありました。私たちにとってその第三者は、須原先生ときよみ先生でした』とお母さんは話されました。私は原さんにはよく『原さんところの3人のお子さんは、勉強をまじめにやるだけでなく、とても素直で、親思い兄弟思いのいい子供さんたちです。本当に上手に育てておられますね。私のところも3人の子供がいますが、ひと様の子供さんばかり世話をしていて、わが子はほったらかしの状態で、まったく紺屋の白袴ですよ。子供たちにはすまないと思っていますが、原さんのところのように、親思い兄弟思いの子に育ってくれているのだろうかと思っています』と話をしていましただけに、熱意をこめて話をしてくださる様子に感激するとともに、『なるほどなぁ』と納得しておりました。
 私が幼かった頃、もう半世紀ほど昔になりますが、どこの家にもたいていおじいちゃんおばあちゃんがいて、中にはおじさんおばさんも身近な所にいたように思います。親子の間で何か問題が起きた時には、年寄りが孫に親の気持ちを教えたり、孫をたしなめたりしてくれる。一方で、親に対しては、年寄りや兄弟あるいは親友が、若者や子供の気持ちを代弁してくれて、親の面子を壊さないように話を持ちかけてくれる。それでぎくしゃくした親子関係が修復されたり、子供は家族の一員としての自覚と責任をもった大人に成長していったのではないかと思うのです。近所にもおっちゃんおばちゃんがいて、悪いことをしたりするとわが子のように注意をしたり、困ったときには相談にのってくれたりしたのです。そういう風潮が社会に存在していたように思います。同居している身内の人間が、親子関係のクッションの役割を果たしてくれたり、近所の人が子育ての潤滑油になってくれたりして、親だけの子育てではなく、『第三者』の存在があったな、と振り返っています。
 現在は『核家族化』していて、そのような『第三者』の存在が少なくなっていたり、あったとしても希薄になっているのではないでしょうか。むしろそのようなことは余計な干渉としてとらえられかねず、『第三者』になることがはばかられる風潮すらあります。しかし、私はやはり『第三者』の存在が、子育てには必要だろうと考えます。そして現代においてその第三者になれるのは、学校の先生か塾の先生ではないかと思っています。保護者とともに手を携えて、子供を育てていける立場にあると考えられるからです。それは口で言うほど容易なことではないし、原さんとの関係のようにうまくいく場合ばかりではないでしょう。こちらが一生懸命そのつもりで頑張っていても、有難迷惑だと感じて退塾され、手のひらを返すようにやめていかれる場合もあり、しばらくは打ちのめされたような思いを抱く場合もあります。それでもなお、私はわが子のような教え子を一人でも多く生み出したいし、後になって保護者から感謝されたいと思います。だから、これからも『第三者』の役割を買って出て、教えるばかりでなく、保護者とともに育てられるように、『火中の栗を拾って』いこうと考えています。私でお役に立つことがありましたら、何なりとご遠慮なくご相談下さい。
 
(『教室だより』第123号より)
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